ベルリンの公立小学校

入学式

 ドイツの入学式は日本と少し違います。
 入学の数ヶ月前に役所から連絡があり、その後、入学する学校からの購入物のお知らせや担任の先生からカードが届いたり、入学式の招待状がきます。家庭では入学式までに通学に必要なランドセルやノートや筆箱、水筒、体操服の袋などを購入するほか、入学式のためにシュール・テューテと呼ばれる円錐形のいれものを購入します。これに親は鉛筆や消しゴムといった文房具やお菓子などを詰め、入学式の朝、子どもにプレゼントします。この入れ物は上が縛るようになっているので中が見えません。子どもたちは入学式にいくらかおめかしをし、ランドセルを背負い、シュール・テューテを抱いて、親と一緒に入学式に向かいます。
 入学式は体育館ではなくアウラと呼ばれる講堂で行なわれ、校長の挨拶のほか、上級生による入学歓迎の披露などがあります。
 入学式の後は家庭またはレストランで親戚を呼んでの会食をする家庭もあります。そこで子どもたちはシュール・テューテを開け、中のプレゼントに歓喜します。
 入学式の様子を親がやっきになってビデオやカメラで撮る姿はドイツでも変りません。



入学日と学期

 ドイツの学校の入学・進学シーズンは秋ですが、夏休み自体が州によって、また年によっても変則的なので、秋とはいえ、実際には8月初旬から新学期という場合もあります。日本では一年を3学期に分けますが、ドイツでは2学期に分けられ、夏休み後、冬休みまでの期間を前学期、冬休み後、夏休みまでの期間を後学期とよんでいます。



校内と施設

 学校は、住宅街に適度に点在し、ベルリンでは、学区の学校は子供が徒歩で通える距離にあります。校舎は住宅と同じく、築百年の堂々たる建物からカラフルで楽しげな新築に至るまで実に様々です。校内には校舎の他に体育館、運動場、遊び場などはありますが、プールは常設していません。3年生から始まるプールの授業は、体育の先生と近くのプールに出かけることになります。また、図書室もないのでクラスごとに図書館へ出向いて借ります。日本の学校のような保健室もありません。



成績表

 ドイツの学校にも成績表があります。ベルリンの小学校では、1年生のあいだは文章で評価が書かれ、2年生になると懇談会の際に親の気持ちを聞き、文章評価か6段階評価かのどちらにするかをクラスごとに決定するようです。3年生以降は6段階評価になります。その評価は日本とは逆で、1が一番良く、数が増えるほど評価は低いということになります。
 ドイツの「1」は「完璧」を意味しますので、日本で95点以上を取って日本の「5」をもらっていた子供も、ドイツでは100点を取らなければドイツの「1」はもらえないかもしれません。また、ドイツの成績表は、テストの結果だけではなく、日頃の授業態度や宿題の提出率も反映してきます。



学校のお休み

 ドイツの学校は、土・日・祝日はお休みですが、宗教的な祝日は教会暦が用いられていますから毎年同じ日付けではありませんし、その日が祝日かどうかも州によって異なりますので注意が必要です。
 長期休暇は、春にイースター休暇、夏休み、秋休み、クリスマス休暇、2月頃に冬休みがありますが、アウトバーンが混み合わないために、州ごとに休暇がずらしてあります。秋休みと冬休みとは州によっては実施されないところもあります。また、ドイツにはヒッツェ・フライという変った授業取り消し制度があります。詳しくはヒッツェ・フライの項目をお読みください。ベルリンの学校のお休みに関しては、ベルリンの祝祭日、べルリンの休暇に関してはお役立ちシート『ベルリンの学校休暇表』をご覧ください。




ヒッツェフライ

 ドイツの小学校には、日本にない不思議な決まりとして、ヒッツェ・フライという制度があります。夏の期間、11時10分の時点で気温が25度以上を記録するとヒッツェ・フライとなり、小学校入学準備学年から2年生までは12時にて、3年生から10年生は13時10分にて授業が打ち切られ、子どもは下校します。以前は、ドイツの夏は短く、気温もさほど上がりませんでしたが、最近の異常気象で25度を越えることは普通のことになりました。けれどもこの不思議な決まりはいまだ生きています。夏の日々、子供がいきなり帰宅するかもしれません。お出かけの際はご注意ください。なお、この制度は10年生までに実施され、11年生以降には対象外です。



授業料

 ベルリンの公立小学校では授業料は無料です。ですが最近は不況に伴い、政府の学校への援助が少なくなっているので、教材の一部などはKlassenkasse(クラッセン・カッセ)とよばれる、クラスごとに金額を決めて父兄が出し合うお金の中から補っていかなければならない場合が増えてきました。



教科書や教材

 教科書は日本の学校よりずっと少なく、授業にはプリントが多く用いられます。また、教科書はもらうのではなく借りるので、学年が終わると返すことになります。ですから新学年に我が子が持ち帰った教科書が新品ではなかったと驚かないでください。
 資料は学科ごとに色分けをしたビニールファイルに閉じこんでいき、、量が増えると使わなくなったページを家庭で保管されるようにと指示を受けます。図画の時間に描いたものはMappe(真理音の噴出し:マッペ)に挟んで持ち帰ります。
 また教科書が配給されると、カバーをかけるようにと通達を受ける場合があります。これらのことは、入学・進学当初に書面で詳しく知らされ、また父母会などでも詳しく教えてもらえます。
 ドイツの子供たちが学校で使っているものは、日本と若干異なります。ランドセルは横長のプラスティックやナイロンでできたもので、デザインや形はメーカーによって様々ですが、一様にカラフルで、個人の好みで選びます。また筆箱はチャック式のものがほとんどで、なかは低学年のうちは鉛筆や色鉛筆、消しゴムなどがゴムで止められるようになっており、3年生からは鉛筆の代わりに万年筆とカートリッジが止められるものに切り替えます。



給食

 ベルリンの公立小学校では、一部の特別指定校を除いて給食制度はありません。低学年のうちは午前中で授業が終わり帰宅します。高学年になると、お弁当を持参するか、3時間目終了後に開店する売店で購入します。
 また、ドイツにはツヴァイテ・フリューシュテゥック(第二朝食)という習慣があり、ドイツの子どもたちは、ちいさなお弁当を持って登校し、フリューシュテゥックス・パウゼ(朝食休憩)と呼ばれる一時間目の後の休憩時間に食べます。このお弁当の内容は、簡単なサンドイッチだったり、ヨーグルトだったり、人参だったり、ひとそれぞれです。



授業時間

 ドイツの小学校の一時限は45分です。ベルリンでは多くの学校が1時間目を8時に開始していますが、時間割は、毎日必ず一時間目から授業があるとは限りません。これは、担任の先生がそのクラスのすべての授業を行うのではなく、専門の先生を登用する方法(国語・算数・音楽・体育・宗教など。生活や図画工作は担任の場合が多い)をとっているためで、もちろん授業日数は定まっていますが、始業時間、終業時間は、学校・クラスによって、また日によって違います。
 休憩時間は、1、3時間目終了後は5分間、2、4時間目終了後は20分間あります。2時間目のあとのホーフパウゼ(中庭休憩)と呼ばれる休憩時間には、子どもたちが一斉に校庭や運動場に出てきて遊びます。



課外授業

 ベルリンの小学校では、通常の授業のほかに遠足や社会見学なども多く実施され、クラブ活動なども盛んです。その種類や内容は、学校によってかなり異なります。ベルリンの学校のいくつかには、推進校制度が敷かれ、スポーツ推進校に指定されている学校では、フェンシングや体操など、音楽推進校に指定されている学校では、ピアノやバイオリンといった楽器のレッスンなど、他の学校にはないような授業を無料で受けることが出来ます。また、ベルリンは外国人の多い街ですから、通常の授業以外にも、「外国人のためのドイツ語」という授業が特設されている学校が多く、また、授業についていけない子供たちのために、「ドイツ語補習」「算数補習」という時間も設けられています。
 クラブ活動も様々な分野が提供されていますが、各クラブの適応学年が決まっています。進学時にクラブ活動の案内と申し込み用紙が配られますので、適応学年を確かめながら選びます。申し込み限度は3つまでと決まっているところが多いようです。



宗教の時間

 日本にはない授業科目のひとつとして、「宗教」の時間があります。これは「キリスト教国であるドイツ」の学校でのことですから、「カトリック」と「プロテスタント」の授業のどちらかを選択ということになります。「仏教」や「イスラム教」「ヒンズー教」などが選べるというものではありません。宗教の時間は課外授業ではなく、授業科目のひとつとして存在しますが、任意の授業なので受けたくない場合は拒否できます。最近は、宗教の時間を取らない子供たちのためのもうひとつの選択肢としてレーベンスクンデと呼ばれる授業が選べるようになりました。内容は「道徳」や「生き方」と訳せるようなものです。この授業もうけたくないという場合は、帰宅するか、校庭などで終わるのを待つことになります。ですが本人に宗教がない、または他の宗教を持っているという場合でも、興味があれば宗教の時間を受けることは自由です。プロテスタント教徒が「カトリック」の授業を受ける、またユダヤ教徒が「プロテスタント」の授業を受けるといったこともよくあります。