ドイツ人のケンカ

 ドイツ人のケンカはハデです。

 もともと肺活量をメいっぱい使って話さなければならないドイツ語の発音が、ケンカとなるとトーンはさらに強まり、ボルテージもあがっていきます。

 ケンカの原因は両者のあいだの微妙な事柄、それはまったくさまざまでしょうが、路上で言い争うドイツ人に遭遇すると、シャイセ(クソッたれ!)やアーシュ・ロッホ(ケツの穴!)とがなりたてる「普及型」から、互いに相手を動物にたとえて罵りあう「動物園型」まで、そのタイプはさまざまです。

 「普及型」では、糞や、肛門と、直接的な下半身に関する単語が多く叫ばれますが、「動物園型」になると、相手を動物にたとえて表現するようになります。

 「ドゥ・シュヴァイン!(この豚野郎)」という怒鳴り声が上がったかと思うと、相手は「ブロゥーデ・クー!(イカレタ雌牛)」などと叫び返し、あとは脂ぎった豚野郎、 古ぼけた蛇女、マヌケな牡牛野郎 、老いぼれドラゴン女 、愚かな犬野郎 、アホなヤギ女 、もうろくした猿男 、愚鈍な雌鶏 、低能な羊女、鼻持ちならない雄鶏、と続き、動物の名前のオンパレードとなります。動物園の醍醐味です。通りすがったこちらは思わず笑いたくなりますが、当の本人たちは、新種を見出すのに懸命です。

 さて、私たち外国人が「路上で大ケンカ」というのはあまりないでしょうが、知らないあいだにケンカを売っていたということにならないために、すこし自分の立ち振る舞いや言葉に注意を向けてみましょう。

 まず、こちらでドイツ語を学び始めると、「シャイセ」という言葉を頻繁に耳にします。耳慣れてしまって、普段使いのように使い始める日本人の方がいらっしゃいます。ですが、「シャイセ」は「クソッ」という意味です。日本語でもおっしゃっているなら構いませんが、そうでない場合は再検討が必要です。この単語は、ドイツでも《品のある言葉》ではありません。「一日に何度耳にするか」ではなく、「どのような人が口にしているか」または「どのような人は口にしないか」を尺度に注意を払ってみるとはっきりします。

 また、「シャイセ」は、自分に向けていう場合は「くそッ!」で収まりますが、第三者に向かって言った場合は「クソッたれ!」という罵りになります。ご注意を。アーシュ・ロッホ(ケツの穴)に至っては、ほとんど「使ってはならない言葉」です。女性の方のご使用はお避けになることをお勧めします。

 一方、仕草としては、こめかみやおでこで、人差し指を回して見せたり、数回突付いて見せる仕草は馬鹿を意味します。運転している相手に、そういった仕草をして見せたところ、相手が事故を起こしたという場合、その仕草をした人が事故の責任を負わされたという話があるほどです。ご注意ください。また、中指を立てる仕草が日本で一時期流行っていたようですが(女性タレントがそうして見せて笑っているシーンがテレビに流れていました)、中指を立てる仕草は女性性器を表しています。「犯してやろうか」という意味です。使う使わないは本人の自由ですが、十分理解した上で使うべきでしょう。特に女性が中指を立てた場合、どういう意味になるのでしょうか。「強姦してください」と、おっしゃりたいならそれが正しい仕草ですが、そうでない場合は誤解されないよう、ご注意ください。

 また、街でかわいい子どもを見かけると、思わず頭を撫でてあげたくなります。ですが、頭に手を置くという仕草には宗教的な意味がありますので、その子の親から大剣幕で叱られるということがありえます。ご注意ください。