ズィーとドゥー

 ドイツ語には「あなた」を指す言葉にSie(ズィー)とDu(ドゥー)があります。

 ズィーはいわゆる敬称、ドゥーは親称ですが、その使い分けは個人差、世代の差があり、また意外に微妙なものです。

 子供の頃は誰に対しても「ドゥー」で話しかけますが、学校で「ズィー」の使い方について学び、すこしオトナになってくると、先生や目上の人に対して「ズィー」で話しかけるようになります。「ズィー」を使い始めた頃の子供の顔には、いくぶん誇らしささえうかがえます。

 学生になると、一般の人には大人と同じように使い分けるようになりますが、学生間では周知の友人であっても初対面であっても、ドゥーを使って話します。

 さて一般には、目上の人、初対面の人、知り合いと呼ぶにふさわしいような間柄の人には「ズィー」を用い、友人や恋人、親戚、家族または子どもに対して「ドゥー」を使って話します。 初対面であった人がやがて親しい間柄になり、ある時を境に「ドゥー」で話すようになるわけですが、「その時」は厳粛にやってきます。

 今まで「ズィー」で語り合ってきた相手から、あるとき、「今日から『ドゥー』を使いませんか」と提案されるのです。その時、同意するなら喜びの表情と共に「もちろん!」と応えましょう。相手はきっと手を差し伸べてきますから、そこで握手を交わし、そのときからふたりは「ドゥー」で呼びあう仲となります。また、初対面の挨拶と共に「ドゥー」で話していいわよね、と提案される場合もあります。同感なら、このときもニコニコと微笑んで「喜んで!」と応えましょう。

 しかしながら、中には「目下」の感覚で「ドゥー」を使う人がいます。デパートやスーパーの店員から、またはタクシーの運転手などから初対面であるのに気軽に「ドゥー」で話し掛けられたら、それは親しみを込めてというよりは、侮蔑を含めてということになります。そんな時は、「あなたはいつから私のお友達ですか?」と相手の目をまっすぐ見つめて聞き返しましょう。

 さて、私たち外国人は、ドイツに住み始めた頃は、「ズィー」で話すことばかりでしょう。「ズィー」は動詞の変化に困らないので(動詞の原形をそのまま使えますから!)なかなか快適なものです。ですが、語学学校や趣味の場などを通して友人は増えていくものです。「ドゥー」のための動詞を覚えながら、「ドゥー」で呼びあうことが増える日を楽しみに待ちましょう。

 ちなみに、同じ相手に、「ズィー」で話しかけてみたり、「ドゥー」を使ったりと、二つの呼びかけを会話の中で混ぜ込んでしまうのは、相手に妙な不安や不信感を与えますから避けた方がよいでしょう。